じわじわと忍び寄る環境ホルモン

産業革命以降様々な化学物質が生成され世に出回ってきました。中には生物や環境に有害な影響をあたえる物質もあります。なかでも致命的な影響を与える物質の一つとして環境ホルモンが大きな問題となっています。

環境ホルモンは別名「内分泌かく乱物質」ともいわれています。その名の通り、生物のホルモン(内分泌物質)に似た作用を持ち、本来の生物機能の発現を阻害します。代表的な環境ホルモンとして、ビスフェノールAやブチルスズ、ポリ塩化ビフェニルなどが挙げられます。これらの物質はプラスチックや樹脂製品、塗料などに含まれ、広く利用されているために世界中に拡散しました。

ゴミなどの処分された物質の行き先の一つに海があるため、海水中の環境ホルモンがその海域の生物に大きなインパクトを与えてしまいます。代表的な影響の一つに、イボニシのオス化があります。

 マキガイの一種であるイボニシのメスにオスの生殖器であるペニスが付いているという現象が報告されています。これは、通常の生殖器形成作用を司るホルモンの働きを環境ホルモンが阻害することによって生じます。

イボニシは自分で動いて汚染環境から逃げ出すということができませんので、もろに環境ホルモンの暴露にさらされてしまいます。その結果、汚染海域では大量のイボニシのメスがオス化してしまうということになりました。イボニシだけではなく魚の稚魚や幼生段階への影響、生物濃縮による人への影響も懸念されています。

人への影響として広く知られている物質にビスフェノールAがあります。ポリカーボネート樹脂から溶出したビスフェノールAは女性ホルモンと似た働きを持ちます。

そのため、ビスフェノールAを取り込んだ女性は正常な妊娠活動が妨げられるということが問題視され、使用が禁止されました。動物実験を行った結果としては、人への重篤な影響が出る可能性は低いとされました。ビスフェノールAは哺乳瓶の吸口などの樹脂にも含まれていたために、乳幼児への影響の可能性を考慮すると、この段階で使用禁止に踏み切った判断は英断でしょう。

世界中で新たな化学物質が生成され、その上昇速度は産業革命以後爆発的な伸びを見せています。もちろん有用な化学物質も多くありますが、すべての物質が環境負荷の低い安全な物質であるとは限りません。

環境中に拡散してから危険性が発覚して、取り返しの付かない結果となる可能性も考えられます。一度排出された物質は容易に除去できないこと、一度失われた生命元には戻らないこと。こういった危険性を考慮したうえで工業製品を利用する賢さが、現代を生きる我々には必要なのです。