海底の汚泥

多くの工場や家庭からの排水は、最終的に海に流されます。無害に成分やすぐに拡散する成分であれば環境中に残留することはありません。しかし、中には有害で海水に溶けにくく、海底まで沈むものもあります。これらは海底の泥とともにとどまり、底生生物に影響を与える恐れがあります。海底汚泥は海水ほど循環のスピードが速くないため、汚染物質が排出されてからも数十年単位で残留し続けます。日本の高度経済成長期に排出された有害成分が、東京湾の海底蓄積物質中で未だに高濃度になっていることや富栄養化による溶存酸素濃度の低下などが問題視されています。
 底生生物や底に近い部分を遊泳する魚が汚泥物質から有害成分を摂取することで、活動量が鈍くなったり交配に影響を与える可能性があります。また、窒素を豊富に含む排水が流れることで、海底汚泥に含まれる微生物が活発に代謝活動を行います。その結果、代謝のために酸素が消費されるため、溶存酸素量が著しく低くなります。海水中の溶存酸素量はすべての生物にとって重要な要素であり、極端に少ないと生物は生育できません。特に、植物プランクトンは溶存酸素量の影響を受けやすく、光合成量の低下を引き起こすため、付近の生物量の低下を招きます。また好気性微生物の活動の低下も引き起こしますので、水域の浄化作用が低下するという悪循環も生じます。一般に魚介類が生存するためには3mg/L以上、好気性微生物が活発に活動するためには2mg/L以上が必要と言われています。それ以下の濃度では嫌気性分解が起こり、悪臭物質が発生します。一時期東京湾のヘドロから発生する悪臭が問題となったこともありました。
汚泥に含まれる有害物質を分解除去するために様々な研究が進められています。海底に設置することで汚染物質を吸着するブロック材や、おがくずを利用した焼結材といったものが開発されています。汚染物質は固体粒子の表面に吸着しやすいため、海底の泥の粒子よりも吸着しやすい成分を利用することで、海底から汚染物質を取り除くという方法です。
 海底の汚泥を物理的にすくうことで除去するという手法も取られています。すくった汚泥を焼結し埋め立てや道路の構築材として利用するのです。この方法では短時間で一気に汚泥を処理できるという利点がありますが、汚泥とともに底生生物も救うため、生態系に大きなインパクトを与えてしまいます。
いずれにせよ、一度排出された汚染物質を取り除くということは非常に難しく時間がかかるため、まずはそういった物資を排出しないという予防が非常に大切なのです。

生態系のカギを握るキーストーン種とは

生態系とは、捕食・被食の関係から成り立つ、ある地域における複数の生物たちの関わり合いのことです。森林や海でももちろん、我々の生活圏内にも生態系は構成されています。既に成熟している生態系は安定しており、通常は気候変動や外部から強力な生物種が来ない限り大きな変動は起こりません。これは、生態系の構成要素がひとつ(1種)だけではなく複数から成り立っているために、個々の要素の増減がそこまで大きな比重を占めないためです。しかし、なかにはその一種が死滅するだけで、その地域の生態系全てが破たんする、という重要な生物種もいます。そのような生物種のことを「キーストーン種」といいます。
 キーストーン種が見つかったのは、海の潮間帯における上位の捕食者である人手を取り除く、という実験からです。ヒトデがいなくなることで、ヒトデのエサであったイガイが大量に繁殖しました。その結果、イガイがその海域の資源を食いつぶし、ほかの種が滅んでしまったのです。つまり、ヒトデの存在がこの生態系を維持するうえで欠かせない存在であったと言えます。また、19世紀に乱獲や捕食により、ある海域のラッコの個体数が絶滅寸前まで減少しました。その後、ラッコが主に食べていたウニが大量繁殖してしまい、ケルプという藻類がウニによって食べつくされてしまいました。その結果、ほかの生物の住処や栄養補給の場がなくなってしまい、その海域は生物がすめなくなってしまったのです。この場合、ラッコがキーストーン種として海域全体の生態系を成り立たせていたと言えます。
このようにキーストーン種の個体数は非常に重要で、その一種が滅ぶということは、生態系全体が滅ぶことを意味します。そのため、人為活動によりある種の生物に影響を与えてしまうと、それがその生態系全体に影響を与えうるのです。特に海にいる固着生物などは、環境が変動しても逃げることができないので、キーストーン種の影響に敏感に反応してしまいます。
生態系の維持を考える際に、キーストーン種の把握は非常に重要です。しかし、生態系自体が様々な要素から成り立つ複雑系ですので、簡単に把握することはできません。ヒトデは人間の目からは目立たない存在ですが、その生態系においては非常に重要であり、滅亡した後にキースト-ン種であることが分かった、という例が多いのです。学術的にキーストーン種という考え方は非常に重要な考え方ですが、やはりどの生物種も人間の都合で滅亡させることなく、生態系全体を維持していくという考え方が大切です。

じわじわと忍び寄る環境ホルモン

産業革命以降様々な化学物質が生成され世に出回ってきました。中には生物や環境に有害な影響をあたえる物質もあります。なかでも致命的な影響を与える物質の一つとして環境ホルモンが大きな問題となっています。

環境ホルモンは別名「内分泌かく乱物質」ともいわれています。その名の通り、生物のホルモン(内分泌物質)に似た作用を持ち、本来の生物機能の発現を阻害します。代表的な環境ホルモンとして、ビスフェノールAやブチルスズ、ポリ塩化ビフェニルなどが挙げられます。これらの物質はプラスチックや樹脂製品、塗料などに含まれ、広く利用されているために世界中に拡散しました。

ゴミなどの処分された物質の行き先の一つに海があるため、海水中の環境ホルモンがその海域の生物に大きなインパクトを与えてしまいます。代表的な影響の一つに、イボニシのオス化があります。

 マキガイの一種であるイボニシのメスにオスの生殖器であるペニスが付いているという現象が報告されています。これは、通常の生殖器形成作用を司るホルモンの働きを環境ホルモンが阻害することによって生じます。

イボニシは自分で動いて汚染環境から逃げ出すということができませんので、もろに環境ホルモンの暴露にさらされてしまいます。その結果、汚染海域では大量のイボニシのメスがオス化してしまうということになりました。イボニシだけではなく魚の稚魚や幼生段階への影響、生物濃縮による人への影響も懸念されています。

人への影響として広く知られている物質にビスフェノールAがあります。ポリカーボネート樹脂から溶出したビスフェノールAは女性ホルモンと似た働きを持ちます。

そのため、ビスフェノールAを取り込んだ女性は正常な妊娠活動が妨げられるということが問題視され、使用が禁止されました。動物実験を行った結果としては、人への重篤な影響が出る可能性は低いとされました。ビスフェノールAは哺乳瓶の吸口などの樹脂にも含まれていたために、乳幼児への影響の可能性を考慮すると、この段階で使用禁止に踏み切った判断は英断でしょう。

世界中で新たな化学物質が生成され、その上昇速度は産業革命以後爆発的な伸びを見せています。もちろん有用な化学物質も多くありますが、すべての物質が環境負荷の低い安全な物質であるとは限りません。

環境中に拡散してから危険性が発覚して、取り返しの付かない結果となる可能性も考えられます。一度排出された物質は容易に除去できないこと、一度失われた生命元には戻らないこと。こういった危険性を考慮したうえで工業製品を利用する賢さが、現代を生きる我々には必要なのです。

船底塗料とその危険性

船舶には生物の付着を防ぐために、底に防汚塗料というものが塗られています。フジツボやカキ殻が船底に付着すると、抵抗の増加による燃料の消費や、スクリューへの巻き込みによる破損の可能性街があります。これらのリスクを抑えつつ、船底のクリーニングコストの軽減と言った目的から、防汚塗料は世界中で利用されています。しかし、船底は直接海水に直接海水と触れているため、塗料成分が海水に溶け出すことが懸念されています。
代表的な防汚塗料の成分の一つにトリブチルスズというものがあります。トリブチルスズは、スズを中心にして炭素と水素が結合した有機化合物です。ヨーロッパで貝類やカキの養殖に悪影響をおよぼすことが判明したことから、このトリブチルスズの危険性が1970年台の終わりから認識され始めました。トリブチルスズはイボニシのオス化を引き起こす環境ホルモンとして作用が知られています。また、トリブチルスズをはじめとする環境ホルモンは生物に蓄積しやすく、分解されにくいため、世界中で規制がなされたあとも長期間残留してしまいます。トリブチルスズが規制されたあとは、代替品として銅や合成有機化合物などの新製品の開発が行われました。イルガロールやジウロンなどがその代表です。しかしこれらの物質もバイオサイド(人体、動物、環境に悪影響を及ぼすおそれのある物質)を含むため、現在では使用されていません。
これらの塗料の代替品として、シリコン塗料やバイオサイドフリー塗料などが開発されました。実験によると、塗料がダメージを受けないように管理をすれば、塗布したあと60ヶ月は効果が持続することが確認されました。最近では、一部の外航船および観光船(稼働率が高く船速の速い船舶)の船底やプロペラなどに塗装され、高い防汚性能が評価されつつあります。しかし、塗装作業が困難でコストが高い等の欠点があります。調査により、有機スズや他のバイオサイドを含む塗料の代替品として有望なものがいくつかあることが分かりました。全ての塗料の内、“1つで万能”な製品はなく、船舶の運航条件に合わせて、適切な防汚システムを導入するのが良いことが分かりました。
空輸や陸路による輸送のみならず、海路も輸送経路の大部分を占めています。すべての船に塗られている防汚塗料が生物に危険性のある物質か否かという問題は、極めて重要なものであることがわかります。持続可能な発展を続けるためには、一つ一つの化学物質を精査し最も環境影響の少ない物を選ぶとともに、実用可能なレベルまでコストや手間を抑えるということが必要です。困難な工程ですが、将来の世代のことを考えると決して省くことのできないものなのです。

バラスト水とは?

貨物船は荷物を積載し、返ってくる際にバランスを保つために「バラスト水」を補給します。このバラスト水の中には積んだ国の生物が含まれ、また別の国で排出されます。これにより生態家のかく乱が生じることが問題となっています。

資材や荷物を運ぶ手段としては、陸路や空路だけではなく海路がかなりの割合で利用されています。その際には大型貨物船やタンカーが使用され、一度に30万トンほどの物資を運ぶことができるものもあります。

運んだ後にそのまま帰ろうとすると、域と帰りで積載量に大きな違いが生じることになります。荷物を積んでも沈まない構造となっているために、からの状態では浮きすぎる状態になってしまうのです。

そのため、荷物の代わりとして「重石」として海水を補給することでバランスを保ちます。この補給される海水のことを「バラスト水」と呼びます。

バラスト水自体はただの海水なのですが、これを積んだ国と排出する国が異なる、というのが大きな問題なのです。当然バラスト水には、積んだ国の海水に含まれる生物が存在していることになります。

輸送中に死んでしまう生物もいますが、逆に増殖する生物もいます。これを何も考えずに排出してしまうと、排出した水域に異なる生態系を持ち込むことになります。多くの場合は排出する水の量も全体からすれば小さいので、その水域の生態系に大きな影響を与えることはありません。しかし、生存力の強い生物が含まれてしまうと現地で増殖し、生態系を乱してしまうのです。

安定した生態系に異なる生態系の生物が流入すると、単に生物ピラミッドの構成が増える、というだけでは済まされなくなります。
生態系は非常に複雑な相互作用のもとに、奇跡のようなバランスでうまく成り立っているのです。一種類混ぜるだけで、生態系が全滅する、ということも決して大げさなことではないのです。生態系には「キーストーン種」という、個体数は少ないもののその種がいなくなるとその生態系が成り立たなくなる、というようなものもあります。
キーストーン種一種がいなくなるだけでほかの何万種類という生物に影響を与えうるのです。そのぐらいデリケートなバランスによって生態系が成り立っていることを考えると、バラスト水の与える影響がどれほど大きなものとなるかお分かりになるでしょう。

長距離輸送により、確かに便利な世の中になりました。しかし、思わぬところで環境への影響というのは起こりうるのです。

汚染物質を出しているわけでも、生物を直接殺しているわけではないだけに、影響が出始めてからでないと気づきにくいものです。できるだけ自分の行動の結果がどんな影響を与えるのか慎重に検討をすることが、最悪の結果を回避する一番の予防策となるのです。

埋め立てと環境への影響

人類は海を埋め立てることで陸地を広げ、領地と人口を拡大してきました。埋め立て技術は現在の人類の規模を考えると必須の技術といえます。しかし、無計画な埋め立てや環境アセスメント(環境影響評価)を適切に行わない埋め立ては、著しい環境影響を与えるのです。

 埋め立て地は廃棄物や土砂を大量に使用することで陸地を形成します。つまりこれまで水があったところに無理やり陸を流し込むわけです。そうなると、海岸や湾に生息していた生物は死滅してしまい、周囲の生態系にも大規模な影響を与えます。干潟や藻場などはプランクトンや底生成物が交わる重要な環境です。

これらの場所は有機物の分解が盛んにおこなわれている場所です。したがってこれらの環境が埋め立てられると、富栄養化問題が進行し赤潮や青潮が発生してしまうのです。

生態系への影響だけではなく、養殖場への影響も懸念されています。養殖場で育てられる生物は、稚魚から育てられるものが多く、そういった生育段階では環境の微細な変化が大きな影響を及ぼす可能性も考えられます。距離的に遠くとも酸い環境はつながっていますので、稚魚を全滅させることもあり得るのです。

さらに、物理的に沿岸環境が破壊されるだけではなく、工事の際に流出した重金属や有機化合物が長期間環境中に残留します。これらの物質は生物に蓄積し、生物濃縮を起こすため、非常に危険です。

また生物濃縮を起こした物質を取り込むと人間への健康影響も出始め、特に子供や老人に深刻な影響が起こりえます。有機化合物は特に分解が遅いことでも知られ、一度埋め立てによる流出が生じると数十年にわたって高濃度を保ちます。

増大した人類の生産活動を支えるには、埋め立てはやむを得ないのかもしれません。しかし、高度経済成長期のような、後先を考えない埋め立てを行ってしまうと取り返しのつかない結果を引き起こすのです。

その最たるものが四大公害に代表される、人への深刻な健康影響なのです。埋め立て事業を行う際には、できるだけ環境への負荷、生態系への影響を少なくするよう配慮した工事計画や資材を用いる必要があります。
また、失われた環境に匹敵するものを別の場所に再現したり補てんすることも重要です(環境ミティゲーション)。
何もしないと、埋め立て後の沿岸は貧しい生態系となるため、陸地は拡大したものの得られる資源は減少するということになってしまうのです。

暴走した開発はいつか私たち自身の身に返ってきます。将来のためにも持続可能な開発を行い、自然と調和した社会づくりをすることが大切なのです。

過剰な漁獲量による生物資源の枯渇

日本の食卓を支える重要な食べ物の一つに「魚介類」があります。日本は島国で、昔から豊かな水産資源に恵まれてきました。私たちの生活になじみすぎて、当たり前となっている魚介類ですが、近年漁獲量が増えすぎたために絶滅に瀕している種がいます。

クロマグロは日本のみならず世界中で利用されていますが、漁獲量が増大したためにこのクロマグロの数が減少しています。マグロに代表される大型魚は生育までに時間がかかるため、一度乱獲してしまうとなかなか個体数が戻りません。
その状態で再び乱獲してしまうとたちまち個体数が減少するのです。

養殖技術が発展し、天然のマグロにこだわらなくても・・・という意見もあるかもしれませんが、自然環境から1種の生物が消えることは生態系全体に影響を及ぼす大問題なのです。
では適正な漁獲量というものはあるのでしょうか?

生物は子孫を作り数を増やすため、そのタイムスキームを把握することが重要です。これを把握し生物資源を減らさない適切な漁獲量を守ることで、その生物種を永続的に利用することができるのです。その漁獲量を「持続可能漁獲量(Maximum Sustainable Yield, MSY)」といいます。

持続可能漁獲量を超えない限り、生物資源は減少することはありませんので安定した漁獲量を保つことができます。では、持続可能漁獲量をはるかに下回る漁獲量であれば、生物はどんどん増えることはできるのでしょうか?
答えはNoです。
環境中の資源事態に限界値があるので、ある程度以上生物種が増えることは環境が許さないのです。環境が耐えうる生物の量を「環境収容力」といいます。
環境収容力と最大漁獲量のバランスをとることが、持続的な水産資源の利用につながるのです。
しかし、これはあくまでほかの人為的な環境影響を感がない場合の話です。たとえ漁獲量を絞ったとしても、その生物種に必要な資源が奪われたり、環境を汚染して個体数を減らしてしまうと、乱獲してなくてもその生物種は絶滅に追いやられてしまいます。

そうなってしまっては、その種類は漁獲禁止という事態にもなりえます。実際、世界ではクロマグロの個体数が激減してしまったため、漁獲禁止になってしまいました。しばらくして個体数が戻ればよいのですが、あまりに漁獲スピードが速すぎると、絶滅という最悪の結果になってしまうのです。

漁獲量の問題は漁師の方だけの問題ではなく、我々の普段の生活の仕方が影響を与える問題なのです。日本の食卓から天然の魚介類が残るかどうかは、資源をうまく使うことと同じくらい、海を汚さないことが大切な要素となってくるのです。

石油の流出と海洋環境

我々の生活に欠かせない石油。
この石油は原油として採掘された後に、タンカーで輸送され、精製加工されます。タンカーの座礁事故や採掘中の事故などによって海洋中に石油が流出することがあります。これらの事故は大規模な環境汚染につながり、付近の生態系や人に甚大な被害を及ぼします。

皆さんは、テレビなどで黒い油まみれになった鳥の映像を見たことがあるでしょうか?
石油流出の象徴的な被害としてよく取り上げられますが、ああいった影響以外にも多くの部分で被害が出てきます。

魚のえらなどに付着した油はエマルジョン(乳化作用)化し、機能不全を引き起こし死に至らしめます。また、稚魚やランなどは酸い環境の影響に敏感であるために、石油が流出するとこれらの生育段階の生物はすべて死滅してしまいます。

死に至らない魚でも、一度体内に取り込まれた油はなかなか排出されませんので、油臭さや不快な味になり、漁師にとっては大きな痛手となります。

油膜の張った海域にいる海鳥は、羽への油分を補給するために好んで飛び込んでしまうものもいます。こういった海鳥は油まみれになってしまい、体温の維持や、遊泳・飛翔ができなくなってしまい死に至ります。

また、石油で汚れた羽をくちばしで繕おうとするために、油を摂取してしまいます。その結果、細胞毒性や内臓の機能不全に陥り、直接死ぬ場合もあれば動きが鈍くなり外敵から身を守れずに死に至る場合もあります。

また、沿岸に押し寄せた原油は広い範囲に油膜を張り、移動能力の乏しい海岸息の生物に甚大な被害を及ぼします。

岩に付着した貝類や藻類はダイレクト影響を受ける他、環境の変化に弱い甲殻類も死滅したり着臭したりします。
また、海水浴や釣りもできなくなるため、ヒトへの影響や観光産業への被害も甚大なものになります。さらに沿岸にある電力発電施設も、冷却のための水を海から取水しているため、操業停止になる可能性もあります。

このように石油の流出は自然界、産業活動に著しい影響を与えます。一度流出してしまった石油は海洋循環の作用で分散させるか、人の手ですくいだしたり油分散剤を利用して分解する必要があります。

沿岸域の石油は地元のボランティア活動によって除去作業が行われます。この際に石油を吸引してしまい、シンナー中毒と似た作用に襲われる人もいます。
単なるゴミ拾いとは違う対策が必要になります。油分散剤による除去は固まった油を海水中に分散させる作用があり、自然循環による油除去作用を促す効果があります。

しかし、油分散剤自体の毒性も懸念されているため、代替対策として油分解バクテリアを利用する研究も進められています。

海洋モニタリング

海洋の環境を把握するためには定期的な状況確認が不可欠です。そのため、現在世界中で海洋モニタリングが行われています。人の生活に密接にかかわる沿岸域を調査するものや、遠洋の生物個体数を調査するもの、海底の泥の組成を調べるものなど多岐にわたります。

 沿岸域のモニタリングでは、陸域起源の汚染物質の分布や生物モニタリングが調べられています。
人為的な活動による環境負荷が高い水域では、特に重金属や有機化合物、ダイオキシンなどの物質が重点的に調べられています。
これらの物質の濃度は沿岸域で高く沖合などで低いことから、やはり陸域からの汚染が沿岸に集積していることを示しています。
沿岸域の生物を採取し、内臓に蓄積した濃度を調べることで生物への影響を測ることができます。

東京湾のダイオキシン濃度は、発生量の減少から時間が経過しているにもかかわらず高いままです。こういった時間差で生じる影響についても海洋のモニタリングを通して発覚したことです。

 化学物質だけではなく生物調査も行われています。イボニシやイガイを採取し雌雄をカウントすることで、環境ホルモンの影響が明らかになりました。
環境ホルモンの蓄積により性攪乱が生じ、雄が雌化するということが問題となっています。また地形と絡めての調査により、沿岸域の地形変動や埋め立てによる生物影響を調べることができます。

こういったモニタリングにより、適切な公共事業や護岸活動をすることができるため、定期的なモニタリングは非常に重要な知見を提供しています。

また、気候の変動や気流と海水も互いにに大きな影響を与えあっています。そのため、遠洋の海水温や水面を調べることで気候変動の影響や異常気象を調べる助けになっています。エルニーニョ現象やラニーニャ現象は海水温と気流の関係で生じるもので、これらの現象によっては農作物の出来や台風の発生時期などが変わってきますので、注目されています。

 海洋モニタリングによって事前に様々な情報がわかるようになり、人為活動の影響や自然災害に対策を立てることができるようになりました。

しかし、遠洋や海底などの調査は時間と手間が膨大にかかること、かけた費用に見合う結果が得られないリスクがあること、調査手法がそもそも編み出されていないといった問題があり、十分な調査はまだなされていません。
そのため、効率の良い新たな研究手法の開発が進められています。

ペレットウォッチや「浮き」を使った調査など低コストで広範囲を調べられる調査法や、一般の人が特殊な技術のいらない方法といったものが期待されています。

赤潮と青潮

 ニュースで「赤潮大発生」などとよく耳にすることはありますが、赤潮とは何なのでしょうか?
 赤潮の正体は、大量発生した植物プランクトンです。

海水中に存在する植物プランクトンは、水に含まれる栄養を吸収することで成長・分裂します。生活排水や工場からの排水の中にはプランクトンの生育に必要な窒素が豊富に含まれます。そのため、一度に多量の排水が流出すると、その海域では植物プランクトンが大発生することになります。

発生したプランクトンは周辺の栄養や酸素を根こそぎ吸収してしまうため、他の生物にとって大ダメージになってしまいます。また、養殖業者にとっても自分たちの育てた業界類に大きな影響を与える赤潮は、大きな悩みの種となっています。

 青潮は、発生した植物プランクトンによるものです。植物プランクトンは死後、海底に沈み、他の微生物の働きにより分解されます。その際に酸素を消費するため、海底の海水が酸欠状態になります。
酸欠になった海水環境では、嫌気性細菌の一種である緑色硫黄細菌というバクテリアが繁殖します。硫黄細菌が生成する硫化水素が海水循環の働きで表層まで上がってくると、硫化水素が酸化されます。
この硫黄酸化物が懸濁した海水が青白く見えることから「青潮」という名で呼ばれるのですね。青潮は硫化水素が元ですので、独特の腐敗臭を伴い、養殖業者や海生生物に大きな影響を与えます。

 赤潮自体は昔から見られてきた自然現象なのですが、地球温暖化による水温の上昇、排水の増加などの要因によって、赤潮が各地でみられるようになってきました。
一度発生すると、周囲の生態系に大きな影響が出ます。長い場合には数年にわたって、その海域の漁獲高が激減するケースもあるようです。

また、一度発生した赤潮を解決する有効な手段は見つかっておらず、現状では富栄養化する原因を予防するといった対策しかありません。

 重金属や有害物質が含まれていないからいいだろうと、排水を捨ててしまうことが赤潮の発生につながることもあるのです。

下水処理技術の向上により、ほとんどの成分は分解されるようになりました。大切なのは、その地域で定められた捨て方をきちんと守り、環境へそのまま流される量を最小限にすることです。

また、一見すると赤潮と温暖化は関係がないように思えますが、実は背景のメカニズムを知ることで両者の繋がりが見えてくるのです。海を大切にするエコな生活を心がけることは、地球全体を守ることにつながるのです。